目次
1.保護対象
1-1.特許法の保護対象と実用新案法の保護対象の違い
特許法と実用新案法は、いずれも自然法則を利用した技術的思想の創作である発明・考案を保護対象とするものですから、本質的には同じ制度です。
沿革的に実用新案法は小発明を保護することを目的にするものであるため、考案のうち、物品(装置や不動産を含む)の形状・構造・組合せに限定しています。
これに対して、特許法は物品に関する発明は勿論、物質(化学物質等)・医薬・植物(バイオ)・コンピュータプログラム等の物の発明、物の生産方法の発明、方法(測定方法等)の発明を保護対象にしています。ビジネス方法に関しては、コンピュータ・インターネットを利用していることを条件に発明として認められています。
1-2.特許法の保護対象
1-2-1.発明の定義
特許法で保護されるのは「発明」であり、以下のように定義されている。
【特許法第2条第1項】
この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。
・「高度のもの」とは、主として考案と区別するために規定したものであって、「発明」に該当するか否かにおいて考慮する必要は特にない。
1-2-2.発明に該当しないもの
- 自然法則自体(エネルギー保存の法則、万有引力の法則)
- 単なる発見であって創作でないもの(天然物、自然現象)
- 自然法則に反するもの(永久機関)
- 自然法則を利用していないもの(人為的な取り決め、数学上の公式、コンピュータプログラム言語)
- 技術的思想でないもの(技能、情報の単なる提示)
- 単なる美的創造物(絵画、彫刻)
1-3.実用新案法の保護対象
1-3-1.考案の定義
実用新案法で保護されるのは「考案」であり、以下のように定義されている。
【実用新案法第2条第1項】
この法律で「考案」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作をいう。
【実用新案法第3条第1項柱書】
産業上利用することができる考案であって物品の形状、構造又は組合せに係るものをした者は、(略)その考案について実用新案登録を受けることができる。
・発明のような「高度性」は不要である。
・物品の形状等に限定される。従って、方法に係るもの、医薬・化学物質等の材料自体は登録されない。
※物品の形状等
- 物品
空間的に一定の形を保有したもので、一般に商取引の対象となる自由に運搬可能な商品で使用目的がはっきりしたものは、「物品」と解釈されている。
また、道路や建築物などの構造も、物品に関する構造として取り扱われている。
なお、機械や装置などと分離して取引されるようなもので、前記の条件を満たすものであれば、その部分を「物品」とみてよい。 - 形状
「形状」とは、線や面などで表現された外形的形象をいい、例えば、カムの形、歯車の歯形、工具の刃型のようなものである。 - 構造
「構造」とは、空間的、立体的に組み立てられた構成で、物品の外観だけでなく、平面図と立面図とにより、場合によっては更に側面図や断面図を用いて表現されるような構成である。 - 組合せ
物品の使用時又は不使用時においてその物品の二個あるいはそれ以上のものが空間的に分離した形態にあり、またそれらのものは、独立して一定の構造又は形状を有し使用によりそれらのものが機能的に互いに関連して使用価値を生む場合を、物品の「組合せ」という。例えば、ボルトとナットからなる締結具等が該当する。
1-3-2.実用新案法で保護されないもの
- 「物品の形状、構造又は組合せ」に該当しないもの(特許法では保護される)
- 方法のカテゴリーである考案
- 組成物の考案
- 化学物質の考案
- 一定形状を有さないもの(例:液体バラスト、道路散布用滑り止め粒)
- 動物品種、植物品種
- コンピュータ・プログラム自体
- 「発明・考案」に該当しないもの(特許法でも保護されない)
- 永久機関(熱力学第二法則に反するもの)
- 音楽を録音したCD(録音された音楽のみに特徴がある場合)
- 絵画、彫刻などの単なる美的創造物
- コンピュータ・プログラム言語
2.権利の存続期間
2-1.特許権の存続期間と実用新案権の存続期間の違い
特許権の存続期間は、出願の日から20年であり、現在医薬品等に限って最長5年間の延長が認められています。これは、医薬品等は安全性を確認するためには期間を要し、その分の侵食された期間を保証するための例外的な措置であります。また、特許を受けている発明であることが条件になります。
実用新案権の存続期間は、出願の日から10年であり、期間の延長は認められていません。
2-2.特許権の存続期間
原則として、特許出願日から20年である(特67条第1項)。
但し、医薬品等の特許発明であって、一定の条件を満たす場合には存続期間を延長することができる(特67条第2項)。
2-2-1.特許権の設定の登録
特許査定を受けた者は、一定期間内に1~3年分の特許料を一時に納付しなければならない(特108条1項)。
期間内に特許料を納付しない場合は、特許庁長官は出願を却下することができる(特18条1項)。
特許料の納付があったときは、特許権の設定の登録が行われ、特許権が正式に発生する(特66条1項)。
特許料の納付は特許印紙の他に現金でも可能である(通常は代理人が専用の口座に入金することで納付が行われる)。
2-2-2.特許権の維持
特許権の設定登録後においては、その特許権を維持するため4年以後の各年分の特許料を、前年以前に納付しなければならない(108条2項本文)。
納付期間内に年金の納付がないときは、特許権は既納の年後消滅する。なお、利害関係人が納付してもよい。
**計算例**
請求項の数が3個である特許発明である場合
- 最初の登録時(1年~3年)分の特許料
2,100円+(200円×3請求項)=2,700円×3年分=8,100円が必要 - 4年目以降6年目まで
6,400円+(500円×3請求項分)=7,900円を各年毎に収める - 7年目以降9年目まで
19,300円+(1,500円×3請求項分)=23,800円を各年毎に収める - 10年目以降25年目まで
55,400円+(4,300円×3請求項分)=68,300円を各年毎に収める
(Ex.) 請求項の数が3個の特許発明を20年間維持するためには、
8,100円+(7,900円×3)+(23,800円×3)+(68,300円×10)=786,200円
2-2-3.存続期間の延長制度
安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の政令で定める処分を受けることが必要であるために、特許発明の実施をすることができなかったときは、5年を限度として、延長登録の出願により当該特許権の存続期間を延長することができる。
また、政令で定める処分は、その目的、手続等からみて当該処分を的確に行うには相当の期間を要するものに限ることとしている。
2-2-4.延長登録の要件
- 主体
出願人は、特許権者に限られる(特67条の3第1項第4号)。特許権が共有の場合は、共有者全員で出願しなければならない(特67条の3第1項5号)。 - 客体
特許発明の実施について安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であって当該処分の目的、手続等からみて当該処分を的確に行うには相当の期間を要するものとして政令(=特許法施行令)で定めるものを受けることが必要であったことを要する(特67条の3第1項1号、67条第2項、施行令3条)。
・「政令で定める処分」とは、農薬取締法の登録及び薬事法の承認をいう(施行令3条)。
・特許権者、専用実施権者、通常実施権者が処分を受けたことを要する(特67条の3第1項2号)。
・延長を求める期間が、特許発明の実施ができなかった期間を超えないことを要する(特67条の3第1項3号)。但し、5年が限度である(特67条第2項)。 - 時期
延長登録出願は、政令で定める処分を受けた日から政令で定める期間内にしなければならない(特67条の2第3項)。
・「政令で定める期間」は、原則として3ヶ月である。但し、出願人が不責事由により期間内に出願できない場合は、その理由がなくなった日から14日(在外者は2ヶ月)を経過する日までの期間(最長9ヶ月)とされる(施行令4条)。
・上記期間内であっても、存続期間満了後は出願をすることはできない(特67条の2第3項ただし書)
・また、存続期間満了前6ヶ月の前日までに政令で定める処分を受けることができないと見込まれるときは、その日までに所定の書面を提出しなければ、存続期間満了前6ヶ月以降に出願することができない(特67条の2の2)。 - 所定の事項を記載した願書を提出すると共に、経済産業省令(=特許法施行規則38条の16)で定める延長理由を記載した資料を添付しなければならない(特67条の2第1項、第2項)。
2-2.実用新案権の存続期間
実用新案登録出願日から10年である(実15条)。
3.審査
3-1.特許出願の審査と実用新案登録出願の審査の違い
特許法は、特許庁の審査官が審査をして、一定の特許要件を備える出願についてのみ、特許を付与することにしています(審査主義)。従って、付与された特許権は安定性が高いと言えます。
実用新案法は、方式的・基礎的要件を備えていれば、新規性等の実体的登録要件については審査することなく、登録することにしています(無審査登録主義)。従って、登録実用新案には、無効理由が含まれていることが多く、実用新案権は不安定な権利です。
3-2.特許出願の審査
出願審査請求(特48条の3)をすることによって、審査官による実体的要件の審査(=新規性・進歩性の有無、先願等。(特許要件)で詳述する。)が開始される。
特許法では審査主義を採用しており、所定の特許要件を満たした発明でなければ特許を受けることはできない。
3-3.実用新案登録出願の審査
実体的要件(新規性、進歩性等)の審査を行わないで登録する「無審査登録制度」が採用されている(実14条第2項)。但し、出願すれば全てが登録されるわけではなく、所定の方式的要件及び基礎的要件を満たすことが必要とされる。
3-3-1.方式的要件
「方式的要件」とは、実2条の2第4項各号に掲げる要件をいい、当該要件を満たさない場合には登録されない。
- 方式的要件を具備せず、且つ、補正ができない場合には出願が却下される(準特18条の2)。
例:願書に明細書の添付がない場合等 - 方式的要件を具備しない場合であっても補正ができる場合は、特許庁長官による補正命令がなされる。補正によっても不備が解消しない場合は、出願が却下され得る(実2条の3)。
- なお、却下処分に対しては不服申立が可能である。
3-3-2.基礎的要件
「基礎的要件」とは、実6条の2第1項各号に規定する要件をいう。当該要件を満たさない出願については、特許庁長官は補正を命ずることができることとし、当該補正命令において指定した期間内にその補正をしないときは、特許庁長官は手続を却下することができる(第2条の3)。
なお、特許庁長官による出願却下処分については、行政不服審査法による異議申立の対象となり、さらにその結果に対しては、行政事件訴訟法による取消訴訟の対象となる(実48条の2で準用する特184条の2)。
*基礎的要件に違反するもの
- 保護対象違反(実6条の2第1項第1号)
出願に係る考案が物品の形状、構造又は組合せに係るものでないとき - 公序良俗違反(実6条の2第1項第2号、4条)
出願に係る考案が公の秩序、善良の風俗又は公衆の衛生を害するおそれがあるとき - 請求項の記載様式違反(実6条の2第1項第3号、5条第6項第4号)
実用新案法施行規則4条で規定された実用新案登録請求の範囲の記載様式に違反するとき - 単一性違反(実6条の2第1項第3号、第6条)
2以上の考案について1の願書で実用新案登録出願をすることができないものであるとき - 明細書の著しい記載不備(実6条の2第1項第4号)
明細書又は図面に必要な事項が記載されておらず、またその記載が著しく不明確であるとき
以上