目次
1.概説
商標は、自己の商品と他人の商品とを識別するための標識ですから、識別機能を備えていなければなりません。さらに、商品の出所が公的機関や有名ブランドの商品であると思わせるなど需要者を惑わせたり、効能がないのにその効能があるかの如き表示をして、出所混同・品質誤認を生じさせたりするものであってはいけません。そこで、登録要件が定められており、それには一般的登録要件と具体的登録要件があります。
一般的登録要件は、その商品の普通名称やありふれた氏又は名称は登録しないとする他、その商品の産地・販売地・品質・効能・用途等を表す標章(文字・図形等)等、識別力を有しないものは登録しないとする要件です。
具体的登録要件は、国旗や国際機関等、或いは他人の登録商標等と同一・類似の商標や、商品の出所を混同させる商標、商品の品質を誤認させる商標等は、登録しないとする要件です。
2.登録の前提条件
自己の業務に係る商品・役務について使用する商標であること(商3条第1項柱書)。
商標は「使用」しなければ保護すべき「業務上の信用」は発生しない。したがって、自己の業務に係る商品・役務について使用しないことが明らかであるときは、原則として登録を受けることができない。例えば、出願人の業務範囲が法令上制限されているため、出願人が指定商品・役務に係る業務を行わないことが明らかな場合などは登録されない。
3.一般的登録要件
3-1.一般的登録要件を満たさない商標は、登録を受けることができない
商標は自己と他人の商品又は役務(サービス)とを識別することができないと、商標としての機能を有しないので、以下に該当する商標は登録を受けることができない(商3条第1項)。
3-2.商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する商標
その商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標(商3条第1項第1号)については、商標登録を受けることができない。
ここで普通名称とは、取引界においてその商品・役務の一般的な名称であると認識されるに至っているものをいう。
例えば、商品「砂糖」に「砂糖」の商標では誰の商品であるか分からない。
略称、俗称等も原則として含まれる。例えば、指定商品「アルミニウム」に略称「アルミ」の文字よりなる商標、指定商品「塩」に俗称「波の花」の文字よりなる商標
普通名称をローマ字や仮名文字で表示する場合含まれる。
3-3.商品・役務について慣用されている商標
その商品又は役務について慣用されている商標(同第2号)については、商標登録を受けることができない。
慣用されている商標とは、同種類の商品・役務について同業者間において普通に使用されるに至った結果、自己の商品・役務と他人の商品・役務とを識別することができなくなった商標をいう。
例:「正宗」の文字よりなる商標を指定商品「清酒」に使用した場合
3-4.その商品の産地等又はその役務の提供の場所等を普通に用いられる方法で表示する商標
その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。)生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標(同第3号)については、商標登録を受けることができない。
このような標章は通常、商品又は役務を流通過程又は取引過程におく場合に必要な表示であり、開放しておくべきだからである。
例:
産地、販売地 | 「東京」の文字よりなる商標を指定商品「菓子」に使用した場合 |
品質 | 「特別仕立」の文字よりなる商標を指定商品「シャツ」に使用した場合 |
役務の提供場所 | 「東京銀座」の文字よりなる商標を指定役務「飲食物の提供」に使用した場合 |
質 | 「外科」の文字よりなる商標を指定役務「医業」に使用した場合 |
3-5.ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する商標
ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標(同第4号)については、商標登録を受けることができない。
例:山田、スズキ、WATANABE、田中屋、佐藤商店、山田株式会社
3-6.極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標
極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標(同第5号)については、商標登録を受けることができない。
例:仮名文字の1字、数字、ありふれた輪郭(○、△、□等)、ローマ字(A~Z)の1字又は2字
3-7.その他何人かの業務に係る商品又は役務であるかを認識することができない商標
前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標(同第6号)については、商標登録を受けることができない。
例:地模様(例えば、模様的なものの連続反復)のみからなるもの、標語、現元号
3-8.例外
商3条第1項第3号から第5号までに該当する商標(上記した3-4.から3-6.に該当する商標)であっても、使用をされた結果、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、登録を受けることができる(商3条第2項)。
4.具体的登録要件
4-1.具体的登録要件を満たさない商標は、登録を受けることができない
一般的登録要件を満たす商標であっても、以下に掲げる商標については登録を受けることができない(商4条第1項)。
4-2.公益的に使用されている標章と紛らわしい商標
公益的に使用されている標章と紛らわしい商標、需要者の利益を害するおそれのある商標は登録を受けることができない。
- 国旗、菊花紋章、勲章又は外国の国旗と同一又は類似の商標(同第1号)
- 外国、国際機関の紋章、記章等であって経済産業大臣が指定するもの及び白地赤十字の標章又は赤十字の名称と同一又は類似の商標(同第2号、3号、4号及び5号)
- 国、地方公共団体等を表示する標章と同一又は類似の商標(同第6号)
例:都道府県、市町村、都営地下鉄の標章等 - 公の秩序、善良な風俗を害するおそれがある商標(同第7号)
例:他の法律でその使用等が禁止されている商標、一般に国際信義に反する商標等 - 商品の品質又は役務の質の誤認を生じさせるおそれのある商標(同第16号)
例:指定役務「フランス料理」の提供について「中華料理の○○○軒」の商標 - 商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標(同第18号)
4-3.品質等保証機能、出所表示機能を有しない商標
他人の使用する商標、他人の氏名・名称等と紛らわしい商標は登録を受けることはできない。
- 他人の氏名、名称又は著名な芸名、略称等を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)(同第8号)
ここで「他人」とは現存している者とされる。したがって、例えば、「徳川家康」は登録される。 自己の名称が「日本株式会社」であるとき、同じ「日本株式会社」が複数存在するとき、業種に関係なく全ての会社から承諾を得なければならない。 - 他人の周知商標と同一又は類似する商標(同第10号)
周知性は全国的である必要はなく、ある一地方でも良い。 商品・役務が非類似であれば、登録される。 - 他人の登録商標と同一又は類似する商標(同第11号)
商標の類否の判断は、商標の有する外観、称呼及び観念のそれぞれの判断要素が総合的に考慮される。 商品・役務が非類似であれば、登録される。 - 他人の登録防護標章と同一の商標(同第12号)
商品・役務が同一でなければ、登録される。 - 種苗法で登録された品種の名称と同一又は類似の商標(同第14号)
- 周知・著名商標であることから、他人の業務に係る商品又は役務(サービス)と混同を生ずるおそれのある商標(同第15号)
- ぶどう酒及び蒸留酒の産地を表す表示を有する商標(同第17号)
- 他人の周知商標と同一又は類似で不正の目的をもって使用する商標(同第19号)
以上